夜の住宅街で、ひとつだけ街灯が消える瞬間を見たことがあるだろうか。
人が通るわけでも、風が吹くわけでもない。
ただ、足を踏み入れた瞬間に光が消え、背を向けた途端に再び灯る――。
SNSでは数年前から、「消える街灯現象」の報告が相次いでいる。
電気的な不具合では説明できない周期性、そして現場のカメラ映像に映らない“何か”。
それは、都市が夜ごとに生み出す“無音の住人”の仕業だと噂されている。
闇に浮かぶパターン
最初の報告は関西郊外の住宅区。
住民が投稿した動画には、一定の間隔で光が断続的に消える街路が映っていた。
ただし、映像には誰も写っていない。
電力会社の調査でも異常は見つからず、センサー反応も記録されていなかった。
やがてネットでは、この現象を「ストリートシャドウ」と呼ぶようになった。
投稿が増えるにつれ、地図上で示された地点が特定の都市構造を描き始める。
それはまるで、夜の街を歩く“誰か”の軌跡のようだった。

消える光の仕組み
電気工学的には、街灯が一定周期で消える場合、電圧低下・センサー故障・赤外線干渉などが原因として挙げられる。
だが、ストリートシャドウ現象の地点では、電源供給系統が完全に独立していることが確認されている。
さらに奇妙なのは、その周囲に住む人々が共通して「静寂を感じた」と証言している点だ。
耳鳴りでも、風の音でもない。
まるで、空気そのものが“録音停止”されたような感覚――。
それは、街の意識が一瞬だけ途切れるような瞬間だった。

“見えない住人”の仮説
都市伝説研究者の間では、この現象を「デジタルリミナル現象」と呼ぶ動きがある。
都市は常にデータで監視されている。
防犯カメラ、交通センサー、GPS、広告ディスプレイ……
あらゆる“視覚装置”が同時に稼働する夜、その視覚の網から一瞬だけ外れる“観測の空白”が生まれる。
そこに棲むのが「見えない住人」だという説だ。
光はその存在を感知した瞬間に自ら消える。
――光が観測できない場所では、影も存在できないから。

そして、また灯る
近年、ある都市防犯カメラのAI解析で、「消灯タイミングと同時に微弱な赤外線反応が出ている」ことが確認された。
ただし、その反応源は空間の中点にあった。
物体でも人影でもなく、存在しない中心点。
研究者たちは「ノイズ」と切り捨てたが、一部のエンジニアはこう記している。
「あれはエラーではない。
たぶん、街が私たちを一瞬だけ“見ない”時があるんだ。」
――その夜も、光は静かに消え、また灯る。
まるで都市が瞬きをしているように。

