国家が隠蔽を選ぶ時、真実は紙ではなく“沈黙”に書き込まれる。
10年前、地方行政の文書庫から、本来存在しないはずの1冊の報告書ファイルが発見された。
表紙には日付も署名もなく、ただ手書きで「閲覧注意」とだけ書かれていた。
調査員が中身を確認した直後――
その報告書は突如として行方不明になった。
閲覧ログだけが残り、ファイルそのものは消失していた。
公文書に残された“空白”
問題の報告書は、河川改修の進捗データをまとめたもので、本来ならば公開行政文書として保管されるはずだった。
しかし発見されたファイルは、公式のフォーマットと大きく異なり、一部のページが黒塗りされていた。
黒塗りの箇所を調査した専門家は、そこに「本来存在しない地名」が記されていた可能性を指摘している。
行政の地図にも存在しない“幻の集落”――
その名が削られた痕跡が、ファイルの隙間に残されていた。

消えた報告書
調査班はファイルの出所を確認するため、書庫のサーバー操作ログを解析した。
すると不自然なログが浮かび上がる。
報告書が開かれた直後、閲覧者のアカウントが一時的に“無効化”されていた。
アクセス権剥奪のタイミングが、閲覧ログの時間と一致していたのだ。
まるで、「読むな」と言わんばかりに。
調査員はその後、この文書に関する調査から外され、詳細を語ることを禁じられた。

影に消えた地名
地理研究者による独自調査で、黒塗りと推測される部分に対応する地点を調べたところ、そのエリアは1度だけ航空写真から欠落していたことが分かった。
衛星写真のデータも、その日だけ解像度が極端に低い状態で保存されていた。
偶然にしては不自然すぎる規模、そしてそれが“行政文書の消失”と同時期であることが、多くの研究者を混乱させた。
その後、専門家はこう結論づけた。
「データが意図的に消されている可能性がある。」
しかし、その“意図”の出所については、誰も答えを出せずにいる。

書庫に残る沈黙
現在、問題の報告書は行方不明のままだ。
閲覧ログは存在し、
調査員もそれを読んだと証言している。
それでも、
公式には「最初から存在しなかった」と記録されている。
――国家は、消すべき情報を紙ではなく沈黙に書き込む。
その沈黙こそが、最も堅牢な封印なのかもしれない。

