それは実験中に起きた。“10分間”という、あまりにも短く、しかし絶対に消えてはならない時間が──記録からごっそりと抜け落ちていたのだ。
ALTERIA(オルテリア)が入手したのは、ある民間科学研究団体が行った「認知時空変調装置」の試作実験の記録。研究者たちは、時空の構造をわずかにゆがめることで、人間の知覚時間を操作できると仮説を立て、極めて小規模な“時空局所場”を生成することに成功していた。
だが、その装置が稼働中に、実験参加者全員の感覚と、記録装置のログから「10分間」が抜け落ちたのである。記録は13:02:17で突然止まり、次のフレームでは13:12:18。途中のデータはすべて無記録。しかも、参加者たちは誰一人として「その時間」を認識していなかった。
13時2分から12分の間に、何があったのか

映像データの解析では、13:02:17の時点で装置のLEDが点灯している様子が映っている。そして、次のフレームは13:12:18。装置はすでに停止しており、研究者たちは誰もが「今ちょうど実験を終えた」と思い込んでいた。
タイムスタンプ上では、確かに10分間が経過している。だが、その間の行動ログ、音声記録、バイタルデータ、脳波の連続記録──あらゆるログが完全に飛んでいる。しかも装置のシステムはエラーを記録しておらず、ただ“正常に終了した”と記しているのだ。
ある研究員は後日こう語った。「私は確かに記録ボタンを押してから、10分経過を確認するまで“1分も経っていない”という感覚だった。時計だけが“勝手に進んでいた”。」
タイムスリップではなく、“時間の空白”だった?
物理学的には、時間の流れは連続的である。しかしこの現象は、「一部の局所時空が、外部と異なる進行をした可能性」を示唆している。
最も近い概念として、量子論における「閉じた時間的曲線(Closed Timelike Curve:CTC)」がある。これは、時空が局所的にループし、情報や意識が“別の位相”にシフトする仮説に基づいている。

もし実験空間内で何らかの微小な“時空ずれ”が生じていたとすれば、装置内の参加者だけが“別の時間層”を経由して戻ってきた、という可能性すら否定できない。
さらに興味深いのは、この「消えた10分」の直前と直後で、被験者の脳波に“微弱なシータ波の継続”が観測されていたことだ。これは深い瞑想状態や夢見に近い状態でしか発生しない波形であり、何らかの「別の意識モード」が発動していた可能性を示している。
パラレルワールド仮説|もう一つの選択肢
ある物理学者は、今回の事象をこう解釈する。「我々は同じ時空に存在しているようで、実は選択の瞬間ごとに異なる“分岐宇宙”を選び直している。今回の実験では、無意識的に“別の時間軸”に踏み出し、それに気づかずに元に戻ってきたのかもしれない。」
この見解は、いわゆる“マルチバース理論”や“エヴェレット解釈”に近く、観測者の意識が「宇宙の選択」に影響を与えているとする立場に属する。現代物理学では依然として仮説の域を出ないが、今回のように観測できない“時間の断裂”が現実に起きたとすれば、それを示す初めての実証例となる可能性もある。
消えた10分間は、どこへ行ったのか

現代科学では、まだ“何が起きたか”を定義することすら難しい。だが、映像は存在している。記録は残されている。何より、そこにいた人々の「記憶が抜けている」という事実だけは、揺るがない。
私たちは時間を“進んでいる”と思っている。しかしそれは、たった一つの時間軸を選択しているに過ぎないのかもしれない。もしも時間が“面”や“層”として存在するものならば、私たちはすでに何度も“違う未来”を通り過ぎているのだろうか。
答えはまだ、誰にもわからない。ただ一つ確かなのは──その10分間に、“何か”があったということだ。