夜の病院には、静寂とは違う“音”があります。
電気の唸り、モニターの点滅、誰もいない廊下で鳴る足音。
それらがすべて、記憶のような気配に変わる瞬間があります。
十数年前、地方都市にある総合病院が突然閉鎖されました。
老朽化と経営難が原因とされたものの、夜勤スタッフが“ある異常な映像”を残していたことは、いまだ公には語られていません。
夜勤棟の“光”
その映像が発見されたのは、廃院の整理作業中でした。
古いサーバーの監視フォルダに、“夜勤棟南廊下”と記されたファイルが残っていたのです。
再生すると、無人の廊下に一つだけ点滅する病室の灯り。
毎晩、同じ時間――
午前2時14分にだけ、数分間だけ灯る。
調査班が現地を訪れたときには、その部屋の電源系統は完全に切断されていたと記録されています。

残された記録
防犯システムのログを解析すると、異常点灯が始まったのは閉鎖の1か月前。
その時期、夜勤スタッフの一人が失踪していました。
彼女は看護記録に、こう書き残しています。
「夜勤棟の奥で、呼ばれる声がする。
灯りがついた部屋の方から。」
その後、誰もその声を聞くことはなかったといいます。

科学が語る“幻影”
心理学的には、こうした現象は感覚の再構成によるものと説明されます。
長期間勤務による睡眠不足、夜間照明による錯覚、そして“予期的恐怖”が視覚情報を歪める。
監視映像の点滅も、古い配線や静電干渉が原因だとする説が有力です。
けれども、なぜ同じ時刻、同じ病室だけが点灯し続けたのか――
その説明は、いまだ誰もできていません。

灯りの意味
2020年、地元の研究者が再調査を行い、その部屋の壁の裏から古いメモリカードが発見されました。
中には、夜勤表と共に“点滅する光を見つめる人影”の映像が。
解析不能なノイズに覆われ、誰が、いつ、何を見ていたのかは分かっていません。
――それでも、誰かがそこにいた。
消えたのは灯りではなく、呼びかけの記憶だったのかもしれません。

